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「旅先のガラス」寺井良平著

「旅先のガラス」寺井良平著

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学術関連書籍
A4版
252頁

(書評)
旅先で出会った諸々のガラスについて,この10年ほどの間亞著者が書き綴ってきたエッセイを基とし,一冊の本に纏め上げられたものである.各章はそれらが雑誌に載るごとに,また別刷りを著者から送ってもらうごとに読んでいたが,一冊の本になったものをあらためて読んでみると,著者のガラスに対する愛情が伝わってくる.
 旅はヨーロッパ,中東,アメリカ,中国,日本と広前囲にわたり,出会ったガラスもステンドガラス,モザイクガラス,クリスタル・カットガラス,鏡,ヴェネツィアンガラス,容器ガラスから火山ガラスに及んでいる.ただしこれらのガラスは旅先でたまたま出会ったというよりは,旅そのものがガラスに出会うためのものであり,それに対面したときの美術的,芸術的感動に加えて,それらのガラスがそこに存在する理由や意味について詳細な考察が加えられている.著者は熱心な読書家であり,国内外の文献に広く目を通し,従来の通説についても疑問とするとこ
ろは,直接ミュージアムに質問状を送って正確を期するための労を借しまない.そして各章の叙述はがラス科学者の眼での分析へと続く.あとがきでも述べられているように,上梓するに当たって,ガラスの科学に縁が無い人にも出来るだけ抵抗感が無く読めるようにリライトされているが、この部分はガラスの研究に長年携わってきた著者ならではのところであり,巷間の多くのガラス美術書とは趣を異にする所以である.
 著者がステンドガラスやヴェネツィアンガラスと同様に,あるいはそれ以上に,こよなく愛するクリスタルカットガラスの項では,必須成分である酸化鉛の規制に言及されている.現在のところ,容器としてのクリスタルガラスからの鉛成分の溶出は規格基準に合格しているので問題はないらしかし将来さらに厳しい基準が適用されたときに,鉛ガラスが生き残れるかどうかの心配はある.クリスタルガラスの輝きと澄んだ響きが世の中から消えてしまわないことを著者と共に願望したい.
 クリスタルガラスが最も美しいガラスとすれば,この世で最も汚いガラスは核廃棄物ガラスであろう.しかし両者はその成分の溶出が問題である点において共通している.高レベル放射性物質閉じ込め用のガラスは,著者が国の研究所在籍時のメイン研究テーマの一つであり,諸問題が多面的に取り上げられている.背景をなすものは著者のライフワークである“ガラス中のイオンの拡散”であるが,これについての難しい理論の記述は避けられているので,理解は容易であろう.原子力発電に推進の立場を取る人にも批判的な人にも,読んでもらいたい1章である.
 そもそもガラスの色とは何であるか.最終章は条件次第で青にも赤にも発色する銅と,赤色に発色する鉄について記述されている.ただし色の本質を理解するためには物質を原子,イオンのレベルで理解することが必要であり,ほかの章に比べてかなり“硬い”.しかしガラス研究の最近の手法を知る意味で,もっとも読み応えのある章であり,著者の力も入っているように思われる.それにしても,柿右衛門以来たくさんの人によって取り組まれてきた赤の発色のメカニズムが,これだけ解析手段の発達した現在でも,完全には理解されているわけではないことには正直言って意外であった.ガラスの色の道は奥が深い。        (評:速水諒三)
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