特集　プラズマからChemistryを取り出してモノをつくる

特集にあたって
(独)物質・材料研究機構　ナノセラミックスセンター　プラズマプロセスグループ　グループリーダー　石垣　隆正

大気圧付近で発生する熱プラズマは,高密度流体中で発生するプラズマの代表選手です.熱プラズマは材料プロセッシングに重要な特徴を有しており,合成プロセスが進行する反応場の制御性を高めることにより,形態,結晶構造,化学組成において従来にない材料創製が可能です.熱プラズマはその名の通り,「熱い」です.1万度以上の超高温をもっていて,発生圧力が比較的高いのでプラズマ密度が高く,軽い電子だけでなく,原子や分子など重い粒子も温度が高く,本当に「熱い」状態です.また,その中には高濃度のラジカルなど活性化学種が含まれています.

本特集では,まず,高温熱源として利用されてきた熱プラズマから,Chemistry を抽出して材料プロセスに利用することを取り上げました.熱プラズマの発生法としては直流アーク放電を発生するプラズマトーチと高周波(RF)磁場による誘導熱プラズマがあげられます.ここで取り上げたトピックスの多くが使用しているRF熱プラズマ法では,RFコイルを通して周波数・数MHz,入力・数十kWの高周波を供給してプラズマを発生します.このRF熱プラズマ法は無電極放電法ですので,酸化,還元,反応性といった各種雰囲気のプラズマを発生することができ,特異な化学反応場を提供します.そのために,化学反応性を顕在化させる反応場を最適化して探索すれば,ミクロン$\sim$ナノサイズの粒子,薄膜・厚膜の創製が可能になります.

また,プラズマ発生法のさらなる高度化を追求する必要があります.そのために,プラズマ発生圧力を下げたり(メゾプラズマ),タイムドメイン制御を取り入れたり(パルス変調熱プラズマ)した新しいプラズマ発生法では熱的効果が抑制され化学的効果が顕著に現れてきました.マイクロプラズマ発生では,マイクロデポジションも可能となりました.アーク放電法でも,多相交流アーク放電が開発され,熱プラズマの体積が非常に大きくなり,プラズマの流速が低くなってプラズマ中の化学反応を十分に生かせるようになりました.液中プラズマ発生では,プラズマ雰囲気の調整,急冷効果などに気相反応場にない特徴が現れました.さらにクラスター流体というべき超臨界状態にある流体中でのプラズマ発生は,クラスターの介在する新規プラズマ状態を実現しました.これら新しい試みを加えて高密度流体中のプラズマからChemistryを取り出す道筋が勢揃いしました.

本特集で取り上げたプラズマ材料プロセスのユニークな点,将来の可能性を理解していただき,多くの方に新たに使っていただけることを切望してやみません.


高周波熱プラズマを利用した金属間物ナノ粒子合成
■著者
東京工業大学　大学院総合理工学研究科　化学環境学専攻　渡辺　隆行

■要約
本稿では高周波 (RF) 熱プラズマを用いた金属間化合物ナノ粒子の合成プロセスに関して,その研究例およびナノ粒子生成過程を解説する.特に均一核生成と不均一凝縮のモデリングについて言及する.


熱プラズマ法による金属・セラミックスのナノ粒子合成
■著者
株式会社 日清製粉グループ本社　技術本部　生産技術研究所　湯蓋　一博　他

■要約
本稿では,熱プラズマ法によるナノ粒子製造方法の概略及び生成した酸化物や金属ナノ粒子を紹介し,応用例として蛍光体ナノ粒子を試作したので,その評価結果について報告する.


熱プラズマCVD法による窒化物・炭化物・ホウ化物・酸化物の単相膜・複合膜・組成傾斜膜の作製
■著者
北海道大学大学院工学研究科　物質化学専攻　嶋田　志郎

■要約
著者は,アルコキシド溶液を熱プラズマ中へ噴霧する新規コーティング法を開発し,低温(<800℃ )で窒化物・炭化物・ホウ化物・酸化物の単相膜,複合膜,多層膜,組成傾斜膜などを作製している.アルコキシドは種類も多く,比較的安価で取り扱いが容易で,環境にも易しく,塩化物ガスや有機金属化合物ガスを使う他のCVD法より高い優位性がある.さらに,熱プラズマ中に水蒸気を導入して,酸化を制御してTiN膜上に低熱伝導性ジルコニア膜の作製にも成功している.ここでは,アルコキシド溶液からの新規熱プラズマCVD法による窒化物・炭化物・ホウ化物・酸化物の単相膜,複合膜,組成傾斜膜の作製とその特性について概説する.


熱プラズマ液滴精錬 (PDR) による高融点金属の高純度化
■著者
日立金属株式会社冶金研究所　韓　剛　他

■要約
筆者らは従来の高純度化技術とは異なるアプローチにより,熱プラズマ液滴精錬 (Thermal Plasma Droplet Refining, PDR) を開発し,高融点金属の粉末状態での高純度化を実現した.本稿ではPDR技術原理および実験結果の幾つかの例を紹介する.


多相交流アーク放電法によるカーボンナノチューブの合成
■著者
福井県工業技術センター　松浦　次雄　他

■要約
新しく開発したアークプラズマ装置は,その安定性,静粛性,大口径であることなど今までに無い特長を持っている.また,カーボンナノチューブは種類によって炉内の特定の場所で生成されていることや温度による形状に差異が生じることなどがわかった.


反応非平衡性を利用するパルス変調誘導熱プラズマプロセス
■著者
金沢大学大学院自然科学研究科　田中　康規　他

■要約
筆者らはこれまでにAr-N2 PMITPにおいてガス流量等の条件を適切に設定すれば基板に供給される窒素原子数を増大させる可能性を見出しており,さらにその高い反応性を保ちつつ熱的なダメージを低減できればPMITPのプラズマプロセスへの応用が大いに期待できる.本研究では上記の理由からこのPMITPの特異な性質を詳細に把握するために実験と数値解析の両面からアプローチを行なっている.


メゾプラズマによる高品質シリコン膜の低温高速堆積
■著者
東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻　神原　淳　他

■要約
筆者らはこれまでにAr-N2 PMITPにおいてガス流量等の条件を適切に設定すれば基板に供給される窒素原子数を増大させる可能性を見出しており,さらにその高い反応性を保ちつつ熱的なダメージを低減できればPMITPのプラズマプロセスへの応用が大いに期待できる.本研究では上記の理由からこのPMITPの特異な性質を詳細に把握するために実験と数値解析の両面からアプローチを行なっている.


超臨界流体プラズマの生成と材料プロセスへの応用
■著者
東京大学　大学院新領域創成科学研究科　物質系専攻　菊池　宏和　他

■要約
本稿では,先ず2章で超臨界流体プラズマに期待される特性について記述し,3, 4章で超臨界流体プラズマの発生に関する基礎研究から,カーボン/金属ナノマテリアルを主に対象とした材料プロセスまで,本研究グループにおいて行われた研究を基に報告させていただく.


大気圧マイクロプラズマによる酸化物ナノ粒子の合成とマイクロデポジションへの応用
■著者
産業技術総合研究所　界面ナノアーキテクトニクス研究センター　清水　禎樹　他

■要約
本稿で紹介する技術は,金属ワイヤーを原料として利用するマイクロデポジション法である.ノズル内に予め挿入しておいた金属ワイヤーを,マイクロプラズマの「熱」で蒸発または溶融させ,プラズマ中の酸素と「反応」させて酸化物ナノ粒子を合成し,下流で「局所的」にデポジションさせる方法である.マイクロプラズマの有する「非平衡性」が本プロセスで活かされているとは言い難いが,有害な有機金属ガス等を利用することなく,大気中で簡易に酸化物ナノ粒子の合成およびマイクロデポジションをすることが可能であり,微小センサ素子の作製等に有用なプロセス技術である.装置の詳細,マイクロデポジションの実施例,また,酸化モリブデンナノ粒子の合成・デポジションを例に挙げ,本プロセシングのプロセス機構の詳細について紹介する.


液中アークプラズマを用いたカーボンナノ構造体の合成
■著者
兵庫県立大学大学院　工学研究科　佐野　紀彰

■要約
本稿では,水,液体窒素,有機溶媒などを液相に使用したときの液中アークプラズマによるカーボンナノ構造体の合成について現在までに分かっている部分を紹介する.


反応性RF熱プラズマを用いたセラミックスナノ材料合成
■著者
(独)物質・材料研究機構　ナノセラミックスセンター　石垣　隆正

■要約
熱プラズマ材料プロセスは,高速・大量合成という工業的に利用可能な素地を有しており,著者らが追求しているナノ構造制御プロセスの有効性が確かになれば,短時間に工業的な利用に結びつくことが期待される.


連載
近代日本のセラミックス産業と科学・技術の発展に尽力した偉人,怪人,異能,努力の人々(30)近代日本の陶芸の発展に尽力した人々(3)板谷波山,小森忍,河井寛次郎,濱田庄司,島岡達三(敬称略)などの傑出した方々と,東京工業学校,東京高等工業学校,東京工業大学,大阪高等工業学校,京都市立陶磁器試験場などの関係者の方々---　河井寛次郎,土と炎の造形詩人
■著者
宗宮　重行