PDF/月刊誌論文/code:pg_0302_08 マテリアル インテグレーション 2003年2月号
MATERIALS INTEGRATION いま,セリウムがおもしろい

固体電解質としてのセリウム化合物
■著者
大阪大学大学院　工学研究科　講師　小俣　孝久　他

■要約
電解質すなわちイオン伝導体は燃料電池や二次電池など電池製品の要素技術であると同時に,各種のガスセンサの心臓部をなす重要な材料のカテゴリーである.固体電解質とは文字通り“ 固体”の“ 電解質”であり,食塩水のようにイオンが電荷の担体でありながら,容器が無くても自形を保てるという特徴により,それを使った素子や製品の安全性や信頼性を格段に向上させる.それゆえ固体電解質とその周辺領域は,近年のエネルギー問題や環境問題のブレークスルーを目指してホットに展開されている研究領域のひとつになっている.酸化物イオン(O2-) 伝導体であるセリア(CeO2) 系固溶体の固体電解質としての歴史は数十年に及ぶ.プロトン(H+) 伝導体であるペロブスカイト型のセレート(SrCeO3,BaCeO3) も我が国発祥の固体電解質で,20 年以上の歴史を持つ3)-9).これらの材料は他の材料の陰に隠れ,永きにわたって実用上は陽の目を見ずに来たが,近年の固体電解質材料を用いるシステムそのものの革新や,新規な用途の出現によって実用化への期待が膨らむ,歴史ある新しい材料であるといえる.(CexZr1-x)4/(4-x)Nb(PO4)3 は現在知られる唯一の固体のCe3+ イオン伝導体である.ごく最近まで固体中の伝導イオン種は1 価もしくは2 価のみで,それより高価数のイオンは周囲の他のイオンとの静電引力が強く,電荷担体とはなりえないというのが一般的な認識であった.数年前から3 価や4 価の多価イオン伝導体が報告され13),その一連の研究により発掘された真に新しい材料である.本稿ではこれらの材料について紹介するが,特に前2 者についての長い歴史を網羅することは到底できない.ここでは最近のトピックを中心に応用との関わりに視点を置いて概説する.末尾に挙げた文献は,成書や総説を中心に列挙した.本稿では言及できなかった詳細な原理や物性,歴史についてはそれらを参照されたい.